和紙の原料「コウゾ」のこと

コウゾ(ことはじめノート)

身近で遠いコウゾという植物

ユネスコの無形文化遺産に、「石州半紙(せきしゅうばんし)」(島根県浜田市)、「本美濃紙(ほんみのし)」(岐阜県美濃市)、「細川紙(ほそかわし)」(埼玉県小川町、東秩父村)の3つの「和紙」が登録されています。
日本政府は、ユネスコに「和紙 日本の手漉(てすき)和紙技術」を推薦しました。
和紙の原料には、コウゾ(楮)やミツマタ(三椏)、ガンピ(雁皮)などのほか、竹などがありますが、ユネスコの無形文化遺産に登録されている和紙は、全て国産のコウゾのみを原料としています。
一方、国産のコウゾは減っていて、外国産のコウゾが使われている和紙の方が多く流通しています。
これは、国産のコウゾを栽培して売っても収入が他の業種に比べて非常に少なく、コウゾの生産者が減っているからです。
現在、日本産の苗木を海外で栽培していますが、土が変わるとコウゾ自体も現地産の特性に変わってしまうのだそうです。そのため、国産の品質を保つことができず、いずれにしても国内産の特徴を持つコウゾは減っているといえます。
コウゾはクワ科の植物で、実は日本全国の山間部に自生している身近な植物なのですが、和紙の原料になるコウゾは品種改良されていて、自生しているコウゾとは品種が異なります。

コウゾ
コウゾ畑:手すき和紙工房潮紙では、ナスコウゾを栽培している

 

コウゾ
コウゾの葉っぱ

手すき和紙工房潮紙の和紙

和紙はだんだん白くなる?

白い紙を作るためには、漂白剤が使われる場合も多いのですが、ユネスコに登録された3つの和紙は漂白剤による漂白は行われません。
紙が紫外線で黄ばむのは漂白剤の影響であり、漂白剤を使っていない紙は出来上がった当初は鮮やかな白ではないものの、だんだんと白くなるのだそうです。

コウゾの下ごしらえ

和紙の原料となる「コウゾ」はどのように使われるのでしょうか?
和紙は、コウゾの枝の皮の部分のみを使います。一方、洋紙は、皮だけでなく幹も使用します。この点が、和紙と洋紙が大きく異なる点の1つです。
下ごしらえの工程は大きくわけると、黒皮ひき、ちりとり、打解・乾燥があり、ほとんどが手作業で手間暇がかかります。

1. 黒皮ひき

黒皮ひきは、さらに細かい手順に分かれています。
写真と一緒にみていきましょう。

コウゾの下ごしらえ1
①枝から皮をはがす
コウゾの下ごしらえ2
②皮を乾かす→③乾かした皮を一昼夜水につけてもどす
コウゾの下ごしらえ4
④柔らかくなった皮から黒皮(外皮)だけを刃物でそぎ落として白皮(内皮)だけ残す
コウゾの下ごしらえ5
白皮(内皮)

黒皮(外皮)と白皮(内皮)の間にはあま皮(中皮)があり、黒皮を丁寧にはぐことが出来ると、あま皮も和紙の原料として使うことができます。あま皮を使うと少しベージュがかった和紙になります。

上:あま皮、下:白皮

ちりとり

2.ちりとり

ちりとりは、黒皮むきをした際に、白皮についている小さな黒皮やチリなどを取り除く工程です。
チリが残っていたら、出来上がる和紙にも黒い点が混じります。
時間をかけた分だけチリは少なくなるけれど、時間をかけた分だけお値段も上がるというわけです。
チリがない和紙は高級感がありますが、用途によってはチリが残っていても良い味になります。

 

3.打解・乾燥

ちりとりが終わったコウゾの白皮は煮て打解して乾燥させます。
和紙に色を付ける時は、乾燥させたコウゾを染めます。

コウゾ(ことはじめノート)

こうして、コウゾの下ごしらえが終わると、ようやく手すき和紙に使える原料となります。
下ごしらえの工程は出来上がる和紙に大きく影響することがわかります。
テレビなどで手すき和紙が取り上げられると、流しすきのシーンばかりが映されますが、実際には、地味で時間のかかる下ごしらえの工程が品質を左右します。
出来上がる和紙をイメージしながら下ごしらえをして、手間暇をかけて…、そうして、出来上がる自分だけの和紙!
もしも、そうして出来た和紙を使う場面があるとしたら素敵だと思いませんか?!

和紙
先染めされた和紙

(撮影場所/手すき和紙工房潮紙)
(文・写真/早川昌子、タイトル写真/早川欣哉)
記事作成:2020年6月8日、記事更新:2022年9月4日

 

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